妻の体調も戻り、ムルマンスクでの撮影も終わったところで「せっかく北の果てまで来たのだから、北極海を見てみたい」。そんな考えが頭をよぎってしまった。向かった先はムルマンスクから北東へ130km、コラ半島北端にある小さな村チェルベルカ。古くは1523年にロシア人入植者が目撃されているそうだが、正式にはバレンツ海を望むムルマン沿岸地域への入植が活発化した1860年代に、多くの人々が住み着いたとされる最果ての地。19世紀後半になって、今もその名残を微かに残す教会や灯台、気象台、大規模な家屋などが建設され本格的な開発がなされている。映画「Leviathan/裁かれるは善人のみ」のロケ地に選ばれたというチェルベルカの荒廃的風景は、きっと人によってはたまらなく郷愁を誘うだろう。開発当時に建設された多くの建造物は倒壊・腐食し、そこらじゅうに打ち捨てられている。幾つか新しく建築されたアパートや家々があるものの、多くの住民は当時建てられたのであろう倒壊寸前の住宅に暮らしている。住民たちの足どりはどこか寂しげで、小さな売店が3つあるだけの村での暮らしぶりを想像させる。本格的な冬の到来は目前。平均気温はマイナス30〜50度、雪と氷の世界がただ広がるこの小さな村の景色を見たくもあるけれど、それはまた別の機会に。
Comments