10日間近く滞在したコルシカ島の小さな村ロリアーノ。そしてリタとパスカルの家fotograficasaでの暮らしを思い出す。毎晩食卓を囲み写真や芸術の話をしパスカルの冗談に笑った日々がすでに懐かしい。濃密な時間の重なりが実際よりも長かったように思わせる。そんな日々の色々が、ひとりひとりと別れの言葉と抱擁の合間に押し寄せてきて心臓のあたりを締めつけた。そんな苦しさから逃れたくて、僕はさっと助手席に乗り込んだ。窓越しに見たオーテンスの表情があまりにもものうげで、僕はなんとも微妙な表情で最後の別れの言葉を告げることになった。パスカルはそんな辛さなど知らぬ様子で、バスチアまでの一時間の道のりも楽しそうに色々な話をしてくれた。風邪をひいているからハグとキスはなしだよ。と言うパスカルとの別れは明るくさっぱりとしたものだったけど、フェリーに乗り込む時に感じた、行き先に待つ人のいない焦燥感はなんともつらく、僕はさっさとビールをオーダーして地中海の端に消えていくコルシカ島を名残惜しむでもなくソファーに横になってしまった。
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