リオ・デ・ジャネイロ中心地にある小高い丘サンタテレーザで カヴァキーニョ(ブラジルの弦楽器)工房を営むテルシオ・ヒベイロ。 6年前、国立病院に勤務する医師から転向し、ルチエ(楽器職人)として新たな人生を歩み始めた。 テルシオの作る美しいカヴァキーニョの音色は瞬く間にリオのミュージシャンから支持を集めた。 現在はリオ随一の人気ルチエとして活動する傍ら、 再び医師としてパラチーという貧しい町へ週に3回の訪問診療を行っている。 訪問診療のために通う町パラチーは、ふたりがハネムーンで滞在した思い出の場所。 医療の行き届かない貧しい地域に住む子供たちと話をするうちに、 彼らの声を集めたドキュメンタリーフィルムを制作することを計画するようになったというテルシオ。 新たな分野へ挑戦することに恐れはないのだろうか? 彼は、僕の問いにこう答えた。 「医師として、ルチエとして、世の中を少しでも良くするチャンス…
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Studio Visit: Ernesto Oliva Rodríguez
1924年に結成、90年の歴史を持つ老舗ソンバンド「セプテート・ティピコ・デ・ソネス」。 ハバナ市街地の目抜き通りを歩けば、強烈に郷愁を誘う彼らの演奏が聴こえてくる。 甘く気怠いトランペット、軽快なマラカスとボンゴが客の体を揺すり、 高音のソロがファニカとチャンチャンのお遊びをもの悲しげに歌い上げる。 バンドのオリジナル曲よりも知名度の高い名曲の演奏を終えた男はゆっくりと椅子に腰掛け言った。 「9歳の頃から色んな人の歌を歌っているからね。どの曲も自分たちの曲に思えるよ」。 今年で92歳になるエルネストは、休憩中にも関わらず彼らのオリジナル曲を少しだけ弾いてくれた。 「ブエナ・ムジカ!」良い曲ですね。僕が言うと首を横に振った。 「まだまだだよ。あと何十年かしたら良い曲になるだろうがね」と笑った。 Found in 1924, son band “Septeto Tipico de Sones…
Read MoreStudio Visit: Irina and Pavel
キューバン・サルサバンド「グルーポ・ノヴォ・アルテ」。 シンガー・バイオリニストのイリーナと、ギタリストのパヴェルが結成して間もないバンドだ。 ふたりは昼間学校で音楽教師として働き、夜はキューバ各地のレストランやバーで演奏している。 「学校では、楽器や歌、ダンスを教えてるんだ。6時に帰ってきてシャワー浴びてまた仕事(笑)」 偉いなぁ。毎日大変でしょう? 彼らのモチベーションの源を知りたくて尋ねてみた。 「将来はビッグバンドで演奏したいからね。場数を踏んで実力をつけておかないと」 彼らの演奏は素晴らしく、カラーコピーのジャケットがカバーになった手製のCDを彼らから買った。 いつかプロの奏者となり、イタリアやスペインを旅するのが夢だというふたりは 素晴らしい未来への予感で満ちた笑顔を残して、ステージへと戻っていった。 Cuban salsa band “Grupo Novo Alte” is …
Read MoreStudio Visit: Alex Cepeda
「この国で芸術家として生きるには、筆を持つ以前に意志と覚悟が必要なんだ」 ハバナから南東へバスで6時間、かつてサトウキビ取引と奴隷売買で繁栄した 古都トリニダーで活動する画家のアレックス・セペーダは、そう言って笑顔を見せた。 「そもそも筆やアクリル、カンバスといった画材の入手が難しいんだ。買う余分な金もない。 2人の小さな子供もいるし、このスタジオの支払いもある。なかなか簡単ではないよ」 アレックスは真新しいカンバスに丁寧に下地を塗りながら肩をすくめる。 「でもね、目の前にある限られた道をどれだけ豊かな気持ちで歩けるかが重要。 自分の人生を愛するんだ。女性や音楽のようにね。それがこの国の男の生き方だ」 “To live in this country as an artist, you first need a strong will and commitment before you e…
Read MoreStudio Visit: Javier Senosiain
カンバスに描いたような大胆な曲線、両生類の鱗を想起させる鮮やかなグラデーションが美しいモザイク装飾。オーガニック・アーキテクチャーの第一人者として、長年に渡って革新的な建築作品を発表し続けるハヴィエル・セノシアインはメキシコを代表する建築家の一人。その奔放な芸術性、壮大なスケールと緻密なディテールに胸の高鳴りを抑えきれず、この建築家が秘めたる“熱”に触れたいと思った。数週間に及ぶやり取りの末、アポイントを取るに至った僕らは、興奮と緊張で寝不足のままメキシコシティ郊外にあるハヴィエル氏のオフィスへとタクシーを走らせた。 翌日の朝、僕らは再びセノシアイン氏のオフィスを訪ねた。建築士・構造技術者のエンドリケ、建築模型士のマリルーが運転する車に同乗し、メキシコシティ北西に位置する都市ナウカルパンへ向かった。初期のオーガニック建築作品をいよいよ見学させてもらえることになったのだ。 1985年竣工の…
Read MoreStudio Visit: Anado McLauchlin
グアナファトを後にし、バスで1時間半の距離にあるサンミゲル・デ・アジェンデへと移動した。グアナファトに引けを取らない中世コロニアル調の旧市街は目を見張るほど美しく、絶えず芸術家を輩出し続けるという街は、美術学校に通う学生たちや移住してきた欧米人たちで賑わいを見せていた。週末になるとあちこちのギャラリーでエキシビションが開催され、まさに芸術の街と呼ぶにふさわしい雰囲気だ。 今回僕らがこの街に訪れたのは、アーティストのアナド・マクラークリンを訪ねるためだった。僕らはタクシーを拾い、あらかじめ用意していたスペイン語に翻訳した順路を運転手に伝えサンミゲル郊外へと走った。小さな手製の看板を見過ごし少し迷ったけれど、近所の市場で聞くとすぐにわかった。カラフルなモザイク装飾の鮮やかな門構えが見え、タクシーを降りた僕らをふわふわと柔らかな髭と愛嬌のある丸い眼鏡があたたかく迎えてくれた。 カーサ・デ・ラス…
Read MoreStudio Visit: El Pinche Grabador
カーサ・クアトロ2階にあるギャラリーで目にした版画作品が気に入って、僕らは作家の名前を頼りにスタジオを訪ねることにした。版画家の名はエル・ピンチェ・グラバドール。旧市街の丘の上、石畳の美しいポシトス通りで人に尋ねているうちに、彼のスタジオへとたどり着いた。 「私の名前は外国人には難しいでしょう。ルイスと呼んでください」。ここグアナファトで生まれ育ったというルイスは、2005年にオープンしたというギャラリー・ショップの奥にあるスタジオへ僕らを案内して椅子をすすめた。これまで街で出会った陽気なラテン男たちとは明らかに雰囲気の違う紳士的で誠実な人柄を漂わせるルイスに、僕は若干の緊張を感じながら、出てきたコーヒーに静かに口をつけた。 「小さい頃から絵を描いてばかりでした」。ルイスは静かに話し始めた。「将来画家を目指していた私はフランシスコ・パトランという画家に弟子入りし、掃除や家事手伝いを…
Read MoreStudio Visit: Karenina Romez
ラテンの熱による浮かれた気分もようやく落着いてきた頃、僕らは自転車に乗れるようになったばかりの子供のようにそろそろと行動範囲を広げていった。巨大迷路のように思えた路地は、おおよその地図が頭に描かれ、家族連れで賑わう地元のタコス食堂での難解な注文もこなし、タコスを口に運ぶ仕草も我ながら様になってきたように思えた。 アーティスト、カレ二ーナ・ロメスとの出会いは、次第に刺激を失いつつある異国での日常に新たな味わいをもたらす神秘的なスパイスのようだった。僕は再び色めき立つ好奇心に、謎の手応えを感じながら彼女のアパートのベルを鳴らした。 「ムーチョ・グスト!(はじめまして)」ドアが開くと、カレ二ーナはインセンスが香る薄暗い部屋へ僕らを迎え入れてくれた。映像やインスタレーション、パフォーマンスアートを中心に活動する彼女は、近年GIFアートの制作に取り組んでいる。サイケデリックな短編映画のような彼女の…
Read MoreStudio Visit: Catherine Gielis
銀細工職人のキャサリン・ジーリスとの出会いは、旧市街にあるカーサ・クアトロと呼ばれるアート・デザイン・食をテーマにした複合文化施設。美しいコロニアル様式の建築物内部には前衛的な現代アートや映像作品がカジュアルに展示されている。宿からわずか10分の位置にある施設の一階部分にはショップを併設した小さなアトリエがあり、そこにはいつも創作に没頭するキャサリンの姿があった。 ベルギーに生まれ育ち、ナミュールとブリュッセルでファインアートを学んだキャサリンはアートスクールを卒業後、ブラジルをはじめ南米各地を旅に出たという。「何かが足りなくて。知識とか情熱だけじゃダメだって直感的に感じたんだ」。各地を転々と旅し、アルパカ縫製やトゥンバガ精錬など伝統的な技法を学んだキャサリンは、メキシコで出会った銀や準貴石加工に特別な感覚を得たという。ブリュッセルに戻りジュエリーデザイナーとして活動を始めたキャサリン…
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