ある日、僕らが滞在するポートランド・サウスイースト地区を散歩していると一風変わった空間が目に入った。まるまる1ブロックが金網で囲われた広大な空き地。そこは一面が芝生で覆われていて、柵の中には一羽の鶏と数頭の羊が放し飼いになっています。何度か足を運んでいるうちに、お昼前から夕方頃までの数時間だけ、金網に取り付けられた簡易的な扉が開放されることがわかりました。夕方になると近所に住んでいるのであろう家族連れやカップルがやたらと愛嬌のある動物たちとの時間を過ごしていて、時計が壊れたようにスローな気分になってちょっとだけ不安になります。
今回訪ねたのはその空き地を見守るようにそびえ建つ建物、Yale Union(イェール・ユニオン)。この風格ある建物は、大規模な洗濯業務会社イェールランドリーによって1908年に建設され、その後合併や売却を経て1950年まで使用されていました。最盛期には125名もの女性従業員がこのビルで長時間の労働を強いられ、オレゴン州の労働法が整備されるきっかけにもなったそうです。
現在は20世紀初頭のアメリカにおけるランドリービジネスの工業化と女性の労働運動、そして中流階級層の台頭を示す歴史的建造物として登録されています。時を経て2008年、この100年の歴史を持つ建物はポートランド・サウスイースト地区における現代美術の中心地としてアーティストたちの手によりイェール・ユニオンという名の組織が設立されます。現代アーティストへの精力的なサポートを目的として新たなモードの創出、そして現行のアートシーンを刺激し活性化する役割を担うクリエイティブな共同体組織として生まれ変わりました。
生まれ変わったイェール・ユニオンには、多目的に使用できるホール、二階には同じ面積のギャラリースペースがあり、感度の高いエキシビションが定期的に開催されています。この時はスーザン・ハウによるビジュアル・ポエトリーの展示が行われていて、夜には建物の窓と言う窓を震わせながらクラブイベントが開催されていました。地下にはパブリケーションカンパニー、Container Corpsや活版印刷所、完全防音のレコーディングスタジオがあります。さらにインディペンデントなコーヒーロースターのRose LineやチョコレートメーカーのCOCA NUなど、若く野心を持つ新しい力が集まっていてワクワクさせられます。この日は上質のエレクトロとワインに酔っぱらってしまったので日を改めてContainer Corpsギャリー・ロビンスのスタジオを訪ねてみることにします。
Yale Union
780 South East 10th Ave. Portland, Oregon
http://yaleunion.org
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